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コモドオオトカゲの墓

父親はよく家族以外の誰か、おそらく友達や会社の人達と海外旅行に行っていた。
そして何だか判らない人形やお菓子を家族へお土産に買ってきていた。

まだ僕が小学校に通う前の頃。
ある日の夕食時、父親が何度目かの海外旅行から帰ってきた。
我が家お馴染みのお土産披露。
父親が旅行鞄から誇らしげに大きな紙包みを取り出し開封するとすごいモノが現れた。
体長1m程のコモドオオトカゲの剥製である。
「ギャー!気持ち悪い!」と絶叫する母親、「まぁー・・・」と言ったまま唖然とする祖母、「ほぉっ。」と感心し、珍しいモノを酒の肴に無言で飲み続ける祖父。
僕は、当時『恐竜のひみつ』という本を愛読書にしていた僕は、恐竜の末裔と言われるところの爬虫類の王様を眼前にして、嬉しさのあまり僕の身長とあまり変わらないコモドオオトカゲの剥製に抱きついていた。

それからそのコモドオオトカゲの剥製は僕の友達になった。
僕はこの友達に名前を付けることはなく、律儀に「コモドオオトカゲ」と呼んでいた。
寝る時は、母親が一緒に布団に入ることを許してくれなかったため、寝ころんだ僕から一番よく見える棚の上にいてもらうことにした。昼間はもちろんずっと僕の側にいる。

小学校3年の終わりの頃、家の前を走る県道の拡張及び路線変更が決まり、僕の家をつぶして裏山を削り新しい道を造るため、僕が幼い頃から住んでいた家は立ち退きとなり、それまでの山の中とはうって変わった街中の住宅街に造られた新しい家に引っ越すことになった。

引っ越しが終わってから数日たった頃、それまで住んでいた家が取り壊されるという日、僕は父親に連れられてその様子を見に出かけた。
「乗り物図鑑」で慣れ親しんだショベルカーやブルドーザーが家の周りを取り囲んでいた。
それまで格好いい乗り物だと思っていたのに、ガリガリ、ギィーっともの凄い音を立てて僕の家を破壊するそいつらは化け物にしか見えなかった。
屋根が崩され、壁が倒され、新しい家には不要だと残されたタンスが壊される。
その様子を父親と2人、無言でじぃっと見つめていた。

破壊作業が終わり父親と我が家の残骸に近づいてみると、そこに置き忘れられていたコモドオオトカゲがいた。
身体はねじれ、腹が割け白い綿のようなものを出して仰向けに転がっていた。
それまでこらえていた哀しみが一気に溢れてきた。
僕は泣きじゃくった。
どうしてコモドオオトカゲを置いてきたのかと父親に激しく抗議した。
コモドオオトカゲを連れて帰ると泣き叫んだ。

「こうなってはもうコモドオオトカゲは連れて帰れない」
父親は長い時間をかけて僕を説得した。

結局コモドオオトカゲを残したまま僕は新しい家に帰った。
僕は家族みんなにコモドオオトカゲを置いてきたことについて抗議した。
コモドオオトカゲは家族から気に入られてはいなかったことを知った。
新しい家には置きたくないとみんな思っていたようだった。

次の日、僕が住んでいた家はコモドオオトカゲと一緒に埋められてしまった。
それからしばらくしてその場所は道路になった。

僕は今でも年に一度コモドオオトカゲの墓参りに出かけることにしている。


本日の1曲:
『Tender』
(Cornelious/Blur『CM2』←CD)

Cornelious Web Site
Commented by mackimber at 2004-05-30 04:54
墓参りなんて1年に1度行ってたっけ? と思ったけども。

そうか、無理してでももとの家の前の道路をとおっていたのか。
by stepbros | 2004-05-30 01:00 | 書き散らかし | Comments(1)

書き散らかしの聴き散らかし


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